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東京地方裁判所 昭和52年(モ)15237号 決定

申立人 更生会社株式会社興人管財人 早川種三

右代理人弁護士 古曳正夫

被申立人 株式会社東邦相互銀行

右代表者代表取締役 佐伯忠良

右代理人弁護士 木村健一

同 原美千子

主文

一、更生会社株式会社興人と被申立人との間で別紙物件目録記載の土地について昭和五〇年八月二七日に締結された被担保債権額を一億五〇〇〇万円とする抵当権設定契約を否認する。

二、被申立人は申立人に対し、別紙物件目録記載の土地について京都地方法務局田辺出張所昭和五〇年八月二八日受付第一九三五八号抵当権設定登記の否認登記手続をせよ。

三、申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一、申立

1.申立の趣旨

主文一、二と同旨。

2.申立の趣旨に対する答弁

本件申立を棄却する。

二、主張

1.申立の理由

(一)更生会社株式会社興人(以下「興人」という。)は昭和五〇年八月二八日東京地方裁判所に対し会社更生手続開始の申立をし(同庁同年(ミ)第一六号事件)、同裁判所は同年一〇月一八日興人に対して会社更生手続開始決定をし、申立人がその管財人に選任された。

(二)被申立人は、右申立の前日である昭和五〇年八月二七日、興人との間で同社の所有に属する別紙物件目録記載の七筆の土地(以下「本件土地」という。)について被担保債権額を一億五〇〇〇万円とする抵当権設定契約(以下「本件契約」という。)を締結し、これについて京都地方法務局田辺出張所昭和五〇年八月二八日受付第一九三五八号抵当権設定登記(以下「本件登記」という。)を経由した。

(三)本件契約による抵当権の設定行為は、興人の義務に属しないものであり、また、無償行為と同視すべき行為でもある。

(四)よって、申立人は、会社更生法七八条一項三号又は四号により本件契約を否認し、被申立人に対し本件登記の否認登記手続をすることを求める。

2.申立の理由に対する認否

(一)申立の理由(一)及び(二)の事実は認める。

(二)申立の理由(三)の事実は否認する。付言するに、興人、被申立人間の取引は昭和四八年一一月二日に開始され、同四九年五月一〇日現在の被申立人の興人に対する貸付総額は債務保証及び商業手形割引を含め三億五〇〇〇万円であり、当時、右貸付の担保は他社手形の預入れであったが、継続的取引という観点から被申立人は興人に対し不動産の担保設定を申し入れ、同社もこれを承諾したものであるから、本件契約による抵当権の設定が同社の義務に属しないということはできない。

3.被申立人の抗弁

被申立人は、本件契約締結当時、興人が東京証券取引所第一部に上場されていた一流の大企業であり、業績も優秀で業界に君臨していた実情にあったから、同社が突如会社更生手続開始申立をするということはこれを予想できなかった。したがって、被申立人には会社更生法七八条一項三号但書所定の事実がある。

4.被申立人の抗弁に対する申立人の認否

抗弁事実を否認する。

三、立証

1.申立人

疏甲第一ないし第一一号証

2.被申立人

疏乙第一号証

四、判断

1.申立の理由(一)の事実は、当裁判所に職務上顕著な事実であり、また、同(二)の事実は、当事者間に争いのないことからこれを認めることができる。

2.そこで、申立の理由(三)の事実につき考えるに、疏甲第一一号証及び疏乙第一号証によると、興人は昭和四八年一一月二日被申立人との取引を開始したが、当時同社には地方銀行、相互銀行からの借入れ(他の金融機関からの借入れを保証する場合を含む。)は無担保で行う旨の資金調達に関する原則があり、被申立人との取引も右原則に従い無担保とすることを被申立人において承諾して開始されたものであること、もっとも、被申立人は取引開始後興人に対し再三にわたり不動産担保の提供を求めたが折り合わず、結局、合意に至らなかったことを認めることができる。右事実によると、興人の本件契約による抵当権の設定は同社の既存の義務に属しない担保の供与である。

3.次に、被申立人の抗弁につき考える。なるほど疏乙第一号証のうちには被申立人の主張に副う記載部分があるが、疏甲第八ないし第一一号証に照らして措信できず、却って、右甲号証によれば、昭和五〇年八月二〇日ころからマスコミによる興人の信用不安を伝える報道がなされ、特に本件契約が締結された同月二七日の朝までには前日の午後に同社の主力取引銀行等が融資の打切を通告し、興人がこれを了承して数日中に会社更生手続開始の申立をする旨の意思決定をしたとのニュースが新聞、テレビ、ラジオ等のマスコミにより全国的に報道されたこと、本件契約は右の報道により債権者らが詰めかけた混乱状態のもとで締結されたことを認めることができる。

4.以上によれば、会社更生法七八条一項三号により本件契約を否認し、本件登記の否認登記手続を求める申立人の本件請求はすべて理由があるから認容し、申立費用の負担について同法八条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山口和男 裁判官 川島貴志郎 志田洋)

〈以下省略〉

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